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とある塔




稲垣 尚毅

作品:297mm×210mm

額縁(内):606mm×455mm

額縁(外):650mm×500mm

和紙に墨


***


今から10年程前の大学生の時に京都の路上で、筆と墨を用意して「あなたを見て言葉を書きます」という書のパフォーマンスをスタートさせたのが僕がアートの世界に足を踏み入れたキッカケとなった気がします。

そして大学卒業後も仕事をしながら書道の作品も書いてましたが「どうせ一回切りの人生なら、本当に好きなことに時間を使いたい」と決心し、仕事を辞めて、プロの書家として独立しました。

そして、たくさんの書の作品を書いていく中で、文字以外にも、作品の中に色をつけたり、絵も添えたりするようになりました。

さらに、様々な絵を描くアーティストの方と出逢ったり、僕が大好きなバスキアの絵を見た時に思ったのです。

「オレも絵だけの作品が書きたい!!!」

今思えば、そう思ったあの時が、「書家」から「書と絵の2つの表現をするアーティスト」として生まれ変わった瞬間でした。

夢中になって絵の具を手にとり、作品もたくさん書いて、去年の秋には生まれて初めて絵だけの個展を美術館で開催させていただきました。

ところが今年に入り、コロナの影響でイベントや筆文字教室などが全て中止になり、3〜7月までアーティストとしての仕事がほとんど無くなりました。

でも、そんな時だからこそ新しいことにチャレンジしようと思い、前からずーっと書きたかったけど上手くいかなくて何度も諦めていた「和紙に墨で龍を書く」ことに再びチャレンジしたんです。

その中で、和紙と墨のモノクロな世界観、墨の「にじみ」や「かすれ」の美しさに改めて感動し

日本人特有の美的センスと言われている「空白の美」の素晴らしさを実感しました。

あえて何も書かない。

あえて書き過ぎない。

その感覚を大切にし、最近の僕は和紙に墨で絵を書いています。

……………

2020年

あの日、路上に出てから10年経ちました。

墨と筆でスタートした僕のアーティストとしての人生ですが、一度絵の具の世界に飛び込んだ後、またこうして墨と筆に戻ってきたのです。

その10年という月日の中で、僕が何かを手に入れたり、何かを手放したりを繰り返して

10年かけて辿り着いた作品が、この「とある塔」という作品です。


特に「楽しいー」と思ったり「あー、書かなあかんなぁ」と思ったりしながら書いたわけではなく、本当に無心で筆を持つ手が動くままに書いたら塔のようなデザインになった感じです。


「書いた」というよりは、何かによって「書かされた」

そんな感覚です。


なので、この作品の内容やデザインそのものに何か意味があるわけではありません。


ただ、言えるのは「僕の10年間の喜びや幸せ、苦しみやもがきや迷い、それらが全部この絵の中に入っている」ということです。


そして皆さんにも、あえて何も書いてない「空白の美しさ」も存分に味わってもらいたいと思い、マットもかなり広めの幅のものを入れています。


それらを踏まえた上で改めて、またこの作品を観てもらえたら嬉しいです。


長文にも関わらず、最後までお読みいただきありがとうございました。


<作者からのメッセージ>






 
 
 

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